論文
2026年10月
自動運転におけるHDマップ改ざん攻撃の体系化とEnd-to-End評価
受賞:学生論文賞
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:佐藤光優, 鶴岡豪 (早稲田大学), 野本一輝, 田中優奈 (DTCY), 森達哉 (早稲田大学/NICT/RIKEN)
概要:HD マップは自動運転の安全性と信頼性を支える基盤技術であるが,悪意ある改ざんにより不正確な情報が混入し,長期間修正されない持続的な脅威となるリスクがある.我々は先行研究において,車線情報の改ざんが車両を経路から逸脱させ得ることを示したが,その評価は車線幅の拡張という地図要素の一つに焦点を当てた改ざん手法に限られていた.本研究では,HD マップを構成する車線・停止線・信号機・制限速度・標高などの多様な要素に対する改ざんを対象とし,シミュレーションによる End-to-End の評価を行った.評価にあたり,HD マップの改ざんが自動運転車に与える影響について,車線逸脱や衝突を誘発するといった安全性への脅威と,停止や渋滞を誘発するといった可用性への脅威の二つに大別す る枠組みを導入した.評価の結果,車線・停止線・信号機・制限速度など多様な要素への改ざんが,安全性への脅威と可用性への脅威のいずれをも引き起こし得ること,また同一の要素でも操作の違いによって 異なる被害が生じることを示した.さらに,改ざん量は被害の大きさと必ずしも比例せず,地図生成時の誤差と区別しにくいことを明らかにした.最後に,防御手法として改ざんの検知には静的な検査に加え, 走行時のセンサ認識との動的照合や文脈的判断が必要であることを論じる.
2026年10月
コンソーシアム型ブロックチェーンにおけるデプロイ経路の限定と監査強制によるスマートコントラクトのライフサイクル管理
受賞:学生論文賞
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:山本 和弥, 瀧田 愼 (神戸大学), 野村 健太, 林田 淳一郎, 石井 龍, 佐古 健太郎, 永井 達也, 渡邉 卓弥, 齋藤 恆和, 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI), 葛野 弘樹, 白石 善明 (神戸大学)
概要:ブロックチェーン上にデプロイされたスマートコントラクトは不変性を持ち,脆弱性の修正や仕様変更が困難である.アップグレードや停止を可能にする手法は提案されているが,個々のコントラクトを対象とするため,チェーン上のコントラクト全体を管理対象にできない.本提案では,コンソーシアム型ブロックチェーンを対象とし,監査,デプロイ,アップグレード,停止からなるライフサイクルをレジストリコントラクトで一元的に管理する.加えて,基盤の権限管理によりネットワーク構築後のデプロイ経路をレジストリ経由に限定し,管理者と基盤設定を信頼する前提の下で,管理外コントラクトの追加を防ぐ.実装したシステムに対する静的解析の指摘には,脅威モデルの下で4つの守るべき性質を破る経路がないことを確認した.また,権限のないアカウントからのデプロイはノードが,管理者以外による操作はレジストリのアクセス制御が拒否することを確認した.
2026年10月
LLM群間の出力バイアスを顕在化させる質問の自動生成
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:福永 拓海, 野本 一輝, 丸田 佳, 田中 優奈, 櫻井 悠次, 古川 凌也, 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI)
概要:LLM は,政策立案や経営戦略といった,一意に解が定まらない意思決定に活用されつつある.こうした活用では,事実誤りを生成するハルシネーションとは別に,学習データやアライメントに由来するモデル固有の出力バイアスにも配慮する必要がある.このバイアスはモデル群間の回答差として顕在化し,特定の立場に偏った出力を通じて,意思決定を意図しない方向へ誘導する可能性がある.このバイアスを顕在化させる入力を導出し,事前に検知・対策することが重要だが,人手で膨大な入力候補を分析するには限界がある.そこで本稿では,異なる複数の LLM 群間の回答差を顕在化させる質問の自動生成システムを提案する.提案システムは,リッカート尺度の回答分布に基づき,群内の回答一致度と群間の分布乖離を組み合わせた目的関数を定義し,LLM を最適化器としたビームサーチにより質問候補を探索する.評価実験では,米国および中国が開発元の LLM 群を対象に,両群間の回答差を顕在化させる質問を自動生成できることを検証し,回答差が顕在化するトピックと顕在化しにくいトピックの傾向を分析した.さらに,評価結果を踏まえ,LLM 出力を意思決定に利用する際の出力バイアスへの対策を提案した.
2026年10月
LLMを活用した多言語ニュース収集・多軸クラスタ分析基盤の設計と評価
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:丸田 佳, 野本 一輝, 福永 拓海, 櫻井 悠次, 田中 優奈, 古川 凌也, 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI)
概要:国際的な安全保障環境が複雑化する中,同一トピックに関する国・ニュースサイト間の報道内容の差異を体系的に把握することは,情報戦・影響工作の分析上重要である.本論文では,631サイト,30カ国以上,20言語以上を対象に,大規模言語モデルを用いて関連記事選別,構造化情報抽出,統合レポート生成,発信国・メディア種別の記事集合比較を行う公開情報分析基盤World Trend Compass(WTC)を提案する.WTCを地政学的事象に適用した結果,57,747件の記事を収集,3,472件を関連記事として抽出し,308ニュースサイト,34カ国,10言語の記事集合を得た.発信国別レポートでは,米国で軍事的成果と政権発言の検証,イスラエルで抑止・防衛,日本でエネルギー供給・物流,ドイツで人道・経済上のリスクが主要論点として出力された.メディア種別レポートでは,公共放送・高級紙系で軍事行動の背景と外交対応,タブロイド系で人的被害と個別の軍事事象が主要論点として出力された.これにより,属性別の記事集合間の強調点と責任帰属の相違が生成レポートに出力されることを確認した.
2026年10月
選挙期の政党公式Xアカウントリプライ空間における投稿行動の縦断分析
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:丸田 佳, 渡邉 卓弥, 古川 凌也, 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI)
概要:選挙期のSNSでは,政党公式アカウントへの返信や引用を通じて,支持や批判が集中する.本研究は,2024年と2026年の衆院選期に政党公式Xアカウントのリプライ空間で観測された投稿を対象とし,両年の収集期間に出現した14,884ユーザからなる共通パネルを構成した.この共通パネルについて,定型表現,批判対象とリプライ空間の組合せ,短時間の投稿集中における反復的な共起を分析した.批判対象は投稿本文をLLMで分類して同定し,反復的な時間共起は各ユーザのバースト参加頻度を考慮した置換検定によって評価した.ある政党のリプライ空間に両年とも投稿した745ユーザでは,ハッシュタグ使用率,近似重複率,同一URL再利用率がいずれも低下した.別の政党への批判では,投稿が観測された政党別リプライ空間の構成に選挙間で有意な差がみられた.また,同じバーストに5回以上共起した264ユーザペアのうち185ペアは,各ユーザがバーストに含まれた回数を保った無作為化と比べて,共起回数が有意に多かった.さらに,バースト時に投稿が偏るユーザでは,応援に分類された投稿の割合が高かった.以上より,選挙間の投稿行動を捉えるには,定型表現だけでなく,批判対象とリプライ空間の組合せ,時間的な集中を併せて観測する必要がある.
2026年10月
SNS上の意見構造を捉えるペルソナベース分析手法の提案
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:鈴木 芽依, 古川 凌也, 森 啓華, 渡邉 卓弥, 野本 一輝, 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI)
概要:SNS上の投稿は,政策議論や世論動向の分析データとして用いられている.しかし,当事者性を考慮しない投稿分析では,非当事者に特徴的な論点や解釈が影響を与える可能性がある.発信主体と投稿内容の関係を特定することは,SNS上の意見分布の適切な解釈に加え,外部主体による情報発信や影響工作に関連する兆候を捉える上でも有用である.本研究では,分析対象とする話題に対する賛成・反対のスタンス別投稿者の属性分布と,投稿者の属性間の使用語彙の差異を,意見構造として分析するペルソナベース手法を提案する.本手法は,投稿のスタンスを分類し,ペルソナの属性を推定することで,スタンス群ごとの当事者・非当事者の構成比を算出するとともに,当事者と非当事者の語彙を比較する.ケーススタディとして,投稿者ペルソナを構成する属性のうち居住地に着目し,当事者性を定義できる二つの都道府県知事選挙の争点に関するX(旧Twitter)の投稿を分析する.分析の結果,両ケースにおいて,反対群では賛成群よりも非当事者の割合が高い傾向がみられ,同一スタンス内においても,当事者と非当事者では用いる語彙が異なることが確認された.
2026年10月
ウォレットアドレスの匿名性を維持したPKIに基づく暗号資産の保有証明
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:石井 龍, 野村 健太, 佐古 健太郎, 林田 淳一郎, 永井 達也, 齋藤 恆和, 渡邉 卓弥, 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI)
概要:金融サービスでは,KYC 等により本人確認されたユーザについて,オンチェーン上の暗号資産の保有状況を審査材料として確認したい場面がある.このためには,Web2 PKI 上で識別される実世界のユーザと,ウォレットアドレスに紐づくオンチェーン情報を安全に結び付ける必要がある.しかし,ウォレットアドレスを実世界のユーザと対応付けて検証者へ提示すると,公開台帳上の残高や取引履歴から過去および将来のオンチェーン活動を追跡可能になるというプライバシ上の課題が生じる.本研究では,ユーザ,発行者,検証者の三者からなるモデルに基づき,発行者がオンチェーン情報を取得して資産に関するポリシー評価を行い,その評価結果を主とするクレデンシャルを発行する PKI に基づく保有証明方式を提案する.提案方式では,ユーザは検証者にアドレス情報を直接与えずに暗号資産の保有条件の充足結果を属性として提示することができる.さらに,クレデンシャル形式として JWT,SD-JWT,BBS 署名の 3 つについてそれぞれ認証シーケンスを設計し実装評価した結果,SD-JWT 方式は既存 Web 技術との親和性を維持すること,BBS 方式は計算コストの増加を伴うものの,holder binding を課さない場合に複数提示間の非リンク性を提供できることが明らかになった.
2026年10月
ARMCmp:比較情報記録の改良に基づくARM32バイナリファジングによるバックドア検出支援
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:金城 豪志 (岡山大学), 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI), 山内 利宏 (岡山大学)
概要:IoT機器を標的とした攻撃には,特定文字列との一致など攻撃者のみが知る条件で悪性挙動を示すコードレベルバックドアがある.この検出には,多数の入力を生成,実行してコードの実行経路を探索するファジングを活用した ROSAなどの手法が提案されている.しかし,既存手法は x86-64 環境を前提としており,多くのIoT機器に採用されるARM32環境への有効性は明らかではない.そこでROSAが提供するバックドアデータセットROSARUMをARM32向けに再コンパイルして既存手法を検証した結果,その検出性能の低下を確認した.この要因分析の結果,既存手法が用いるファザーAFL++において,実行時における条件分岐の比較情報を入力変異に利用して条件突破を支援するCmpLogが,ARM32では有効に機能していなかったことが判明した.本研究では,既存CmpLogをARM32向けに拡張したARMCmpを提案する.ARMCmpは,比較命令に用いられる値の読み込み幅を起点に,レジスタ間とスタックを介した伝播の追跡により,比較幅を復元する.さらに,ARM32呼出規約に基づき比較関数の引数を取得する.得られた比較情報を入力変異に活用し,条件突破を支援する.評価において,ARM32向けに再コンパイルしたROSARUMを用いた結果,ARMCmpにより既存手法のバックドア検出数が233%増加した.
2026年10月
EIP-7702によるブロックチェーン攻撃の変容: 敵対的利用実態と運用上の利点に関する分析・評価
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:丹治 開, 渡邉 卓弥, 伊藤 大貴, 高田 雄太, 熊谷 裕志(DTCY), 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI)
概要:EIP-7702は,Externally Owned Accounts (EOA)の性質を維持したまま,スマートコントラクトのロジック付与を可能とする仕組みであり,EVM互換チェーンにおける従来のEOAとコントラクトアカウント (CA)の境界や役割を変質させる.この変化は,一般ユーザに対して柔軟な権限制御等アカウントの利便性や機能性の向上をもたらす一方,攻撃者に対しても攻撃の自動化や効率化を実現する新たな手段を提供し得る.そこで本研究では,EIP-7702が既存のブロックチェーン上の攻撃にどのように悪用され,攻撃手法がどのように変容しているかについて明らかにする.具体的には,アドレスポイズニングおよびERC-20 Wash Tradingに着目し,EIP-7702の利用実態および攻撃の実行規模や効率性などの運用面に与える影響を調査した.その結果,アドレスポイズニングでは,約606万件の少額送金攻撃にEIP-7702が悪用され,攻撃の効率化および大規模化が行われていることを明らかにした.さらに,ERC-20 Wash Tradingでは,EIP-7702の悪用事例を1,028件観測した.最後に,得られた知見に基づき,EIP-7702を起点とする攻撃の低減に向けた対策を提言する.
2026年10月
秘密鍵と署名判断をTEEに隔離したWeb3トランザクションの安全な自動署名
学会・研究会:コンピュータセキュリティシンポジウム (CSS) 2026
著者:濱口 健人, 瀧田 愼 (神戸大学), 野村 健太, 林田 淳一郎, 石井 龍, 佐古 健太郎, 永井 達也, 渡邉 卓弥, 齋藤 恆和, 高田 雄太, 熊谷 裕志 (DTCY) , 神薗 雅紀 (DTCY/DTSI), 葛野 弘樹, 白石 善明 (神戸大学)
概要:Web3における定期送金や条件付き決済では,トランザクション署名の自動化が有用である.しかし,クライアントPCが侵害されると,秘密鍵を専用装置へ隔離しても,装置は改ざんされたトランザクションへの署名を要求される可能性がある.本稿では,クライアントPC,通信経路,および署名装置の通常実行領域を信頼せず,秘密鍵,ポリシー照合,署名判断,署名生成をTEE内に隔離するWeb3トランザクションの自動署名システムを提案する.利用者は自動署名を許す範囲をポリシーとして事前承認し,システムはポリシーに適合する要求を自動署名する.照合可能だがポリシー外の要求はユーザー確認へ移し,照合不能な要求は拒否する.Raspberry Pi 3B+とOP-TEEによる実装では,TEE内で生成した署名済みトランザクションがEthereum互換の実験チェーンで受理され,ポリシーを満たす要求を平均670 msで処理した.
