シンクタンク

  • 量子コンピュータ市場のフェーズ転換を牽引するスタートアップ

    量子コンピュータは本格的な産業応用準備フェーズに向けた転換点を迎えている。多様な技術領域でイノベーションを牽引しているのはスタートアップである。近年は、量子スタートアップの上場や大型資金調達、政府による支援の拡大など、量子コンピュータ市場は新たな成長局面を迎えている。既存の企業に求められるのは、技術の完成を待つことではなく、課題を起点としてユースケースを探索するとともに、スタートアップとの共創を通じて実証・実装への道筋をいち早く確保することである。

  • 欧州、技術主権パッケージ―開放性に根差した主権は成立するのか

    2026年6月3日、欧州委員会は、半導体法案2.0とクラウド・AI開発法案(CADA)を柱とする「技術主権パッケージ」を発表した。域外の巨大IT企業(ハイパースケーラー)が欧州のクラウド市場を支配し、また域内には先端半導体の製造能力が存在しないという厳しい現実を前に、EUは公共調達に「主権」の基準を導入し、段階的な要件を設ける見込みだ。もっとも、その制度設計は、域外事業者の完全な排除を目的としたものではなく、一定の条件を満たせば市場アクセスを認める、条件付きアクセスの性質が強い。他方で、政策を支える財源は2028年から7年間の中期予算である「次期多年度財政枠組み(MFF)」の決着待ちであり、何より代替となる域内の技術基盤やそれを育てるベンチャーキャピタル市場も十分に成熟していないのが実情だ。本稿では、同パッケージの提案を読み解きながら、その実現がなぜ難航するのかを構造的に整理し、日本に向けた示唆を提示する。

  • 本を読む人

    欧州のAI(人工知能)政策専門家たちによる近未来予測「Europe2031」は、AI政策に関する判断ミスが衰退を招く様相を描き出し、世界中に波紋を広げた。前回の論考ではEurope2031が提起した地政学的・経済安全保障上の課題=内容(コンテンツ)を取り上げたが、本稿ではその形式(フォーム)に焦点を当てる。Europe2031の執筆者たちは、従来の政策文書形式を排し、「SFプロトタイピング(Sci-Fi Prototyping / Speculative Fiction Prototyping)」と呼ばれる手法を用いて、政策当局者の感情と直感に刺さる物語を紡ぎ出した。生成AI、自律型AIエージェントが急激に普及・進化している現在、SFプロトタイピングをAIと融合させるアプローチは、政策立案・分析に技術革新をもたらす可能性がある。