Interview

2025年12月1日

日本の成長と競争力強化へ、提言と社会実装—
デロイト トーマツ戦略研究所が描く未来

デロイト トーマツ グループは、グループ全体の研究・調査、分析、開発、発信機能を結集させ、 一般社団法人『デロイト トーマツ戦略研究所』を設立した。設立の背景と目的、さらに今後の展望について、代表理事の角南篤が語った。

「戦略性」が重要を増す時代

—日本、世界が今、直面している課題をどのようにとらえていますか?

角南 世界に目を向けると、これまで築き上げてきた国際秩序が大きく変容し、激動の時代に突入しています。 例えば、中東では、米国はイランとの間で同国の核開発を制限する合意の実現に向けて交渉を進めていましたが、 イスラエルが攻撃に踏み切りました。大きな背景として、中東地域の二大軍事大国であるイランとイスラエルとの間に、 長年解決できなかった本質的な問題があります。 両国間には信用が全く存在せず、今回の紛争を防げなかった根本的な原因はそこにあると言えます。 また、イスラエルとパレスチナの紛争についても、(双方の主権国家としての共存を前提とした)「Two-State Solution(二国家解決)」が長く議論されてきましたが、 現状は武力での解決に陥り、事態は膠着しています。

Main Interview

米国では第2次トランプ政権が発足し、覇権を争う中国だけではなく、同盟・同志国をも対象とした高関税措置を導入しました。 半導体やAI、航空機、造船など幅広い産業・領域において、米国を中心としたサプライチェーン、バリューチェーンを再構築し、 米国での雇用を増やそうとしています。米国にとどまらず、所得層や考え方、人種をめぐる摩擦は広がっており、 インターネット上では偽・誤情報、エコーチェンバー(自身と同じ価値観・興味を持つ人同士の意見が共鳴し、増幅されること)が広がっています。 ナラティブ(主観的な物語)が政策や選挙、経済活動に一層影響を及ぼすようになってきたと見ています。 日本に関しては、隣国である韓国のリーダーが変わり、難しい問題もある中で二国間の信頼関係の構築が課題となっていきます。 北朝鮮の核問題解決に向けた協議は進展がみられず、ウクライナ紛争をきっかけに、ロシアとの関係も崩れてしまいました。 特に安倍晋三元首相が築いた日ロ二国間の関係は、現在では完全に失われてしまったといえるでしょう。 また、米国との関係についても、トランプ政権下の通商・経済政策にどのように政府、企業は対応できるのか、先行きが見えません。 これらを俯瞰してみると、我々が置かれている現在の世界(の枠組み)は、本質的な課題を何か解決できるのか、解決してきたのか、 という問いを突き付けられているように感じます。この問いに対して、これからどのように解を積み上げていくのかが求められており、 そのためには「戦略性」がこれまで以上に重要になっています。

人材を惹きつける社会・環境

—複雑性を増す世界の中で、日本はどのように対処できるのでしょうか?

角南 今、世界の枠組みは大きな変容が始まっているようです。これは日本にとっても簡単な状況ではありえません。 日本自身が変革の努力をし、世界中に散らばった日本の活力ある人材を呼び戻し、他国の優秀な人材も引き付けるような、 そういう環境を作っていくことが求められています。社会の変化が加速している現代は、新たな環境づくりの好機ではないでしょうか。 例えば今年、問題となったコメ不足ですが、日本の従来のコメ政策は、人口減少社会であれば需要も自然と減っていくなかで、 減反政策をとらないと農家が守れないというものでした。しかし、今回の事態を踏まえ、政府は減反政策を見直すという判断に至りました。 後ろ向きの発想ではなく、現状を反転攻勢のチャンスと捉え、具体的な施策を実行すべきです。日本の農業や経済を新しい方向へと変える好機でしょう。 目の前に転がっているオポチュニティを活かし、日本が前進する重要なタイミングになると思います。 こうしたシステムの改革を、小さくても積み重ねていくことで、優秀な人材はきっと日本に戻ってくると思います。 私は学生時代に長くアメリカで生活しましたが、海外に住むことで日本の良さに数多く気づきました。だからこそ、海外に飛び出していった日本人が、 国内に魅力的なオポチュニティがあれば戻り、貢献したいという感情を持つことは十分に想像できます。それは日本人に限ったことではなく、 他国の様々な人々についても同様です。多くの人が祖国への思いを胸に抱いているからこそ、その思いを実現できる機会や環境を創り出すことが、まずは重要です。 そして、「こんな未来、社会を築いていこうよ」というメッセージを日本の社会、政治、産業、そして個々の企業が国内外に発信していくことが求められます。 言葉の力を最大限活用し、ビジョンとして語り掛けることが大切だと考えています。

戦略研究所の使命とは

—日本が難局に直面する中、デロイト トーマツ戦略研究所はどのような役割を果たしますか?

角南 日本ではこれまで、政策立案も意思決定も基本的に中央官庁が担ってきました。優秀な人材が集まり、政治と調整しながら、政策を推し進めてきたと言えます。 一方で、世界の枠組みが大きく変わる中、既存の日本の意思決定のシステムは新しい取り組み、仕組みを導入し、進化していくことが求められているかもしれません。 現在の日本には、圧倒的に情報ネットワークが不足しています。かつて『Japan as No.1』と言われた時代には、商社や企業が世界中から情報を集めていましたが、 情報が格段に増え、複雑化する中、今ではそのネットワークだけでは対応が難しくなってきました。その結果、日本が持つ情報量は大きく減少し、 国際的なパートナーとの情報格差が危惧されています。 そうした中で、デロイト トーマツには世界中に広がるネットワークと、それを国内で共有する情報基盤があります。 サイバースペースや宇宙など新しいフロンティアで、日本の組織が国内拠点だけで情報を収集・分析することは難しくなっていますが、デロイトのグローバルネットワークは対応できます。 圧倒的な量の情報にスピーディーにアクセスしたうえで整理・分析し、確実な意思決定を支える役割が期待されています。このようなインテリジェンスの重要性は高まるばかりです。 中央官庁がなかなか抜け出せずにいる縦割り的な思考をブレークスルーする触媒になる役割も果たせると思っています。 私たち、デロイト トーマツ、そして戦略研究所はインサイトをご提供し、社会実装を進めるための分析力、研究力、メッセージ発信力を持っていますし、それを切磋琢磨して高めていきます。

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——新たな国際秩序の中、戦略研究所はどこを目指すのでしょうか?

角南 日本と世界を結ぶハブにデロイト トーマツはなるポテンシャルを持っています。 これまで日本には、戦略研究所のような民間でありながら公共的な仕事を担っていくと掲げた組織はほとんど存在していなかったと認識しています。 デロイト トーマツはビジネス・組織に関するあらゆるプロフェッショナルが集っており、一貫して日本の産業・企業に寄り添って、成長を支援してまいりました。 デロイト トーマツ戦略研究所は、そんなグループの力を結集して発足しました。グローバルネットワークに加えて、 日本社会と向き合ってきた老舗ファームとしての総合力によって、日本の強みを引き出す政策や戦略の提言・発信、先端技術研究・開発、システムの社会実装に取り組みます。 日本の次世代を担う政官財学のリーダーや専門家を結び、イノベーション創出のハブとして、日本の潜在力を引き出し、未来を切り開いてまいります。 戦略研究所の目標、目的は、信頼を構築しながら、社会活動や企業活動が成長していく環境を作っていくことです。 その役割や位置づけは非常に明確であると考えています。

聞き手:デロイト トーマツ戦略研究所編集長 江田覚
写真:谷口岳史

PROFILE

角南 篤

デロイト トーマツ戦略研究所代表理事。公益財団法人笹川平和財団理事長、政策研究大学院大学学長特命補佐・客員教授、 早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員教授、昭和音楽大学学長、広島大学学術顧問。専門は国際関係論、公共政策論(科学技術・イノベーション政策)。 内閣府参与を経て、内閣府沖縄振興審議会会長、文部科学省日本ユネスコ国内委員会副会長、内閣官房経済安全保障法制に関する有識者会議委員、 内閣府宇宙政策委員会基本政策部会委員、内閣府総合科学技術・イノベーション会議専門調査会委員等を務める。 その他、JAXA宇宙戦略基金プログラムオフィサー、JAXA衛星地球観測コンソーシアム会長、月面産業ビジョン協議会共同座長、 国連海洋科学の10年国内委員会共同座長、NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム有識者委員会共同座長等を務める。 コロンビア大学政治学博士(Ph.D.)、コロンビア大学国際関係・行政大学院国際関係学修士(MIA)、ジョージタウン大学外交学学士(BSFS)。