Interview

2025年12月18日

日本の成長を促すイノベーション・ハブ — デロイト トーマツ戦略研究所の責務

デロイト トーマツ グループは、グループ全体の研究・調査、分析、開発機能を集め、一般社団法人「デロイト トーマツ戦略研究所」を設立した。 共同代表理事を務める香野剛が、戦略研究所の展望を語った。

求められる「トラスト(信頼)」
 
 

—日本の経済・社会が直面している課題をどのように見ていますか?

香野 少子高齢化による人口減少が構造的な問題として深刻さを増しています。その中で経済成長は40年間、低迷してきました。 さらに、世界、アジア広域で地政学リスクが高まり、人工知能(AI)、デジタル技術を中心に破壊的なイノベーションが進んでいます。 国内外の課題は複雑化・高度化し、未来を予測することが非常に難しくなってきました。

例えば、エネルギーやバイオ、海洋開発などの領域を中心に、日本には世界をリードできる技術や研究のシーズがあります。 しかし、人口減少によって国内経済は伸び悩んでおり、日本のマーケットだけでは研究開発投資を回収できない状況になっています。 新技術や新製品を海外に打ち出していくためには、地政学リスクに対応したサプライチェーンを構築し、強靭にしていくことが求められています。 また、私がデロイト トーマツの一員としてご支援している国内各地域に目を向けると、少子高齢化・人口減少の影響が確実に広がっています。 地域の公共サービスも民間セクターのエッセンシャルサービスも持続可能性自体が危ぶまれている状況です。 当面の解決策はこれらのサービスの新たな担い手の創出と、デジタル技術を活用し生産性を高めることです。   もう一つ重要な点は、デジタル・インフラに潜むリスクを防止することです。

インターネット空間でのコミュニケーションや決済は使い方を誤ると社会の不安定さを増幅させるでしょう。 ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の「なりすまし」や偽・誤情報の拡散、クレジットカードの不正利用のような問題が、 さらに深刻になる恐れがあります。インターネット時代の安全・安心な基盤を構築することも大きな課題です。

—日本の経済・社会が直面している課題をどのように見ていますか?

香野 日本政府が掲げている成長戦略は、これらの課題の解決を目指すものです。私たちも確実な推進に向けて、貢献したいと考えています。

政府は2020年代に入り、日本の成長と経済安全保障にとって重要な分野・産業には積極的に国が投資してリードしていく政策に方針を転換しました。 北海道や熊本県などでの半導体産業クラスター創出が代表例です。この政策を進めるためには、官と民、中央と地域、多様な産業間、 グローバルとローカルの協働が不可欠であり、日本が得意としてきた「すりあわせ」の力が問われています。

それには、様々な領域や組織、専門家を結び付け、カタリストとして発酵させていく機能が求められます。 ハブ(集約点)となるカタリストがうまく働けば、日本酒のような風味を創出することができるはず。 同時にカタリストにはトラスト(信頼)が大切になると考えています。

公益を意識した政策提言・研究開発
 
 

—日本が難局に直面する中、デロイト トーマツ戦略研究所はどのような役割を果たしますか?

香野 デロイト トーマツは、次世代半導体拠点の集積が進む「北海道半導体バレー構想」でカタリストの役割を担い、お手伝いしています。 同じような地域連携の枠組みを、半導体領域に限らず、全国各地で積極的に展開しています。 加えて、公共サービス・エッセンシャルサービスの担い手を創出する取り組み、さらには自身が担い手となることも進めています。 こうした日本の成長の枠組みを確実に支援するために一般社団法人デロイト トーマツ戦略研究所は発足しました。

私たちデロイト トーマツは、2万人を超えるプロフェッショナルが集い、様々な官民セクターに専門知識をご提供しています。 また、グローバルネットワークだけではなく、北海道から沖縄県まで国内約30カ所の拠点を持っています。 それを支えるのが監査の信頼を基礎とした、国内資本によるグループ経営です。 創始者の等松信蔵は海軍主計士官から戦後、公認会計士に転じ、産業界の成長支援に力を注ぎました。

日本の経済社会の成長・発展に貢献するという基本理念は、私たちデロイト トーマツ グループの中に脈々と流れています。 この理念に基づき、戦略研究所は公益を意識し、次世代に成長をつなげるために活動していきます。

—デロイト トーマツ戦略研究所の強みは何でしょうか?

香野 デロイト トーマツ戦略研究所には3つの強みがあります。    第一にグループが保有するインテリジェンスを活かし、シンクタンクとして日本の成長に必要なルール形成や政策を大胆に構想し、提言していきます。

第二に、日本政府は成長戦略として、また米国との戦略的投資の一環で、 AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、サイバーセキュリティ等に政策措置を講じますが、 その成功には、設計から実行までを支える人材が必要です。デロイト トーマツ グループは戦略策定、 デジタルアセットの開発、実行までを担う人材を擁しており、戦略研究所は日本の成長機会を見出し、これらのプロフェッショナルとつないでいきます。

第三の強みが先端研究開発・実装機能です。社会課題を解決する新技術やソリューションを開発し、 社会実装する役割は国内の他の既存組織には見当たらないかもしれません。

例えば、インターネット空間での身元を確認するデジタル認証の仕組みは、企業と連携して研究所のメンバーが設計し、既に実装されています。 デジタル認証をはじめとするトラス基盤を整えることは、これからのデータ利活用を促進するとともに、 いわゆるデジタル赤字の改善にも寄与できると確信しています。 政府のインテリジェンス基盤の構築支援も検討が進んでいます。デロイト トーマツとして人工衛星を打ち上げる準備も進めています。

今、政府や公的セクターの方々と意見交換すると、海外の政策の情報や知見を参考にしたいという声が増えています。 また、課題解決につながる新技術へのニーズも高まっています。私たちデロイト トーマツ戦略研究所は「シンクタンク」、 「研究開発」の二つの機能を活かし、半導体などの戦略領域における海外政府の動向やインテリジェンス、 具体的なソリューションを分析し、提供することができます。

未来志向の連携、解決策の共創
 
 

—戦略研究所が描く未来はどのようなものになりますか?

香野 AIに代表されるイノベーションによって、我々自身もサービス・事業モデルを抜本的に変革していくことが重要になっています。 また、コストプッシュ型とされるインフレ、相対的な貧困層の増加といったこれまでになかった社会課題に対し、 従来の延長線上ではない、新たな視点からの政策が求められています。

一般社団法人として、公益性を重視し、新しい経済・産業政策のアイデアを創出すると同時に官公庁、 国内外のシンクタンク、アカデミア、専門家と幅広く連携していきます。 そして、戦略研究所は、「政策や制度そのもののイノベーションを創出するシンクタンク」を目指します。

 魔法の杖のような解決策はすぐには導けないかもしれません。 しかし、これらのチャレンジと多くの専門家との協働を楽しみ、恐れずに進むことで道は拓けるはず。 戦略研究所では、様々な方々と未来志向の連携、解決策の共創に向かってまいります。

聞き手:デロイト トーマツ戦略研究所編集長 江田覚
写真:谷口岳史

PROFILE
 

香野 剛

デロイト トーマツ戦略研究所共同代表理事。デロイト トーマツ グループG&PS(ガバメント&パブリックサービシーズ)インダストリーリーダー。

 

デロイト トーマツ入所後、上場会社等の会計監査に従事。 その後パブリックセクター部に異動し、公共セクターに対する各種アドバイザリー及びコンサルティング業務、会計監査にプロジェクトマネージャー又は業務責任者として関与。

 

日本のG&PSインダストリーリーダーを務めるとともに、スマートシティイニシアティブをリード。地方創生やスマートシティに関する数多くのプロジェクトの経験を有し、地域アジェンダ解決・未来創造の官民連携プロジェクトを全国各地で推進している。