Interview

2026年9月9日

「企業に知財・無形資産の開示を求め、国際標準化で司令塔を作る」 自民党・知的財産戦略調査会の大塚拓会長(衆議院議員)に聞く

自民党・知的財産戦略調査会が、知財戦略を日本の成長戦略の根幹に位置付ける提言を取りまとめた。その提言では、①国家戦略における知財戦略の活用、②企業の知財・無形資産経営の推進、③官民が一体となって取り組む国際標準化戦略の強化――の3点が大きな柱とされた。日本企業には知財・無形資産を経営の柱に据えるように求め、有価証券報告書への開示義務化に向けた道筋を示した。提言を受け、政府は東京証券取引所とともにコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂に同様の考えを反映させたほか、知財開示を企業に要請する要綱をまとめた。また、技術で勝ってビジネスで負けないための国際標準化戦略の司令塔づくりも始まった。「戦略的成長投資17分野」で国際競争力を高めるためにも、「地域未来戦略」で地方の成長を促すためにも、知財と標準化が重要になるとの認識だ。知財戦略調査会の会長として提言をまとめた大塚拓・衆議院議員に提言の狙いを聞いた。

大塚拓・衆議院議員

 

日本企業の稼ぐ力を底上げする


 

 

——大塚拓議員が会長を務める自民党・知的財産戦略調査会が、知財戦略を我が国の成長戦略及び経済安全保障の根幹に位置付ける提言を取りまとめ、6月に高市早苗総理大臣に申し入れを行いました。(表1参照)

 提言には、国家戦略における知財戦略の活用、企業の知財・無形資産経営の推進、官民が一体となって取り組む国際標準化戦略など重要なテーマが盛り込まれています。

 大塚議員らの働きかけによって、7月に公表した金融庁や東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂に提言の考えが反映されました。改訂を受けて政府は、知財や無形資産への投資状況を企業に開示するよう求める要綱をまとめました。

 企業が避けることができない重要なテーマですが、大塚議員ご自身が調査会の提言で最も力を入れた点からお聞かせください。

 

表1 知的財産戦略調査会提言の一部抜粋

デロイト トーマツ戦略研究所作成 

 

大塚 根底にある問題意識は一つです。それは、日本企業全体の「稼ぐ力」をどう底上げするかということです。

 日本経済は、「失われた30年」の長期的停滞で苦しみました。背景には企業経営が表面的、形式的になってしまったことがあると考えています。本来、企業は「自分たちは何で利益を生み出している会社なのか」という問い、ストーリーを常に持たなければいけません。しかし、その本質的な議論が弱くなってしまった。そのことが日本経済の停滞につながったと思っています。
 

高市早苗総理大臣への提言申し入れ(2026年6月25日、大塚議員提供)

 

無形資産の割合、米国9割、日本5割

 

 

——企業の価値を支えているものを、改めて見直そうということですね。

 

大塚 そうです。工場や土地、設備はもちろん重要です。しかし、同じ設備を使っていても、より高い付加価値を生み出す企業があります。その差を生み出しているのは知財であり、無形資産です。

 ただ、知財というと、多くの人は特許や商標、著作権だけを思い浮かべますが、実際には、それだけではありません。営業秘密、ブランド、顧客とのネットワーク、組織のノウハウ、人材育成の仕組みまで含めて企業の競争力を支えています。これらすべてが知財・無形資産です。

 ところが日本企業では、そうした目に見えない価値が経営の中心になっていません。時価総額に占める無形資産の割合を米国と比較すると愕然とします。企業価値に占める無形資産の割合は日経225構成企業で約50%にとどまる一方、米国S&P500構成企業では約90%です。日本は2010年が20%弱だったのを考えると、かなり改善しているのですが、知財・無形資産で稼ぐモデルへの転換にまでは至っていません。

 

——なぜ、そのような経営になってしまったのでしょうか。

 

大塚 経営指標やガバナンスの形式ばかりが重視され、本来投資すべき無形資産への投資が劣後していた側面もありました。有価証券報告書などに記載が求められている対象は、形のある有形固定資産などに絞られているので、企業もそれに準じた経営になってしまっているのではないでしょうか。

 根本課題としては、日本の企業を取り巻く環境が大きく変わったことがあります。昔はメインバンクが企業と長期的な関係を築き、短期間では成果が見えない研究開発や人材育成にも理解がありました。しかし、現在は企業自身が資本市場と直接向き合うようになり、どうしても四半期や単年度の成果が重視されるようになっています。そうなると、すぐ利益にならない基礎研究や長期投資は削られやすくなります。

 もう一つは経営者の問題です。創業者が率いていた時代とは違い、多くの企業では社長がサラリーマン経営者になりました。どうしても在任期間中の実績を追わざるを得ない。日本は経営人材の流動性が低いため、社内で昇進した人が社長になるケースが多く、企業価値をどう創造するかという視点が弱くなりがちです。
 

 

 

有価証券報告書での知財・無形資産の開示を義務化へ

 

 

——結果として、自社株買いなど短期的な株価対策に偏る面もあるわけですね。

 

大塚 そう思います。本来なら知財・無形資産に投資し、中長期で企業価値を高めるべきなのに、株価維持のための施策に資金が回ってしまう。株主還元は重要ですが、それだけでは企業の競争力は高まりません。知財・無形資産への投資こそが将来の利益を生み出します。

 そこで提言では、知財・無形資産を企業価値創造の中核に据えることを打ち出しました。日本は「モノで稼ぐ国」から「知財・無形資産で稼ぐ国」へ転換しなければなりません。企業価値を正しく評価してもらうには、投資家との対話も変えなければならない。その第一歩が開示制度の改革です。

 

——そのために、有価証券報告書での知財・無形資産の開示を求めています。

 

大塚 経営者が「この会社は何によって稼ぎ、どこへ投資しているのか」を説明できるようにしたいのです。
コーポレートガバナンス・コードに原則として必ず入れなければいけないということで政府側に働きかけ、しっかりとした形での議論ができたと思っています。

 そして、一定の義務を伴う形で開示を求める必要があるとの議論から、有価証券報告書に知財・無形資産を項目として義務的に開示してもらおうとなったわけです。

 有価証券報告書で開示されれば、株主総会では社長自身が知財投資について説明しなければならなくなるし、取締役会でも知財が中心議題になります。そうなれば取締役にも知財を理解する人材が必要になり、企業統治そのものが変わっていくはずです。

 2027年度から有価証券報告書で開示してくださいとお願いしても、社内体制が整っていないでしょうから、政府には2026年度中に方針をはっきり決めて、公表するよう求めています。そして、次の会計年度からルールに沿った知財・無形資産の開示をしてくださいということになる見込みです。今後、内閣府から開示の仕方や開示スケジュールが示されていくと思います。

 

 

自社の勝ち筋を可視化する「IPランドスケープ」の活用を

 

 

——提言では知財・無形資産型の経営を推進するためのツールとして「IPランドスケープ」(Intellectual Property Landscape) や「オープン&クローズ戦略」を使いこなしてほしいという提案もされています。

 

大塚 知財は単に特許を取るだけでは意味がありません。経営戦略そのものに組み込まなければいけない。そのための有力な手法の一つがIPランドスケープです。

 技術情報や特許情報、市場動向などを分析し、自社がどこで勝てるのか、競争相手はどこにいるのか、どこへ投資すべきかを見極める。技術系企業であれば、IPランドスケープによる分析を経営判断に生かすことが不可欠です。

 もう一つ重要なのが、「オープン&クローズ戦略」です。何でも特許にすればいいわけではありません。公開して標準化につなげる技術もあれば、営業秘密として徹底的に守る技術もある。その線引きを経営として判断することが重要です。知財を法務部門、知財部門の仕事ではなく、経営そのものとして捉え直すということです。

 

戦略的成長投資17分野を支える知財戦略

 

 

——スコープを広げて、政府の産業政策の観点から伺います。高市政権が掲げる戦略的成長投資17分野へ知財戦略をどう生かしていくかも大きなテーマになっています。

 

大塚 知財政策は、単なる特許行政ではありません。日本経済をどう成長させるかという産業政策そのものです。
政府はAIや半導体、量子技術、バイオ、宇宙、GX、DXなど17の重点分野を成長の柱として掲げています。しかし、技術開発だけを支援しても国際競争には勝てません。重要なのは、その技術をどう知財として守り、どう市場につなげ、どう収益化するかという戦略です。

 日本ではこれまで、「技術で勝って、ビジネスで負ける」と言われてきました。しかし、最近は技術そのものでも負け始めています。技術で負け、そのままビジネスでも負けるということになれば、人口減少が続き、安全保障の負担も増え、財政状況も厳しい日本が、必要な経済成長を実現することは難しくなります。

 だからこそ、技術で勝っている分野は、その技術をきちんとビジネスの勝利につなげなければいけない。一方で、仮に技術レベルで劣勢にある分野でも、知財戦略と後ほどお話しする国際標準化で主導権を握ることによって巻き返せる可能性はあります。どの分野であっても、知財と標準化は欠かせないのです。

 

——研究開発と知財を一体で考えることも重要ですね。

 

大塚 従来の日本は、「この技術は素晴らしい。だから、まずは技術を完成させよう」という発想に偏り、その先の知財に意識を向けていませんでした。大学の研究室でも、研究者が技術開発に集中する一方で、知財をどう確保するか、どこまでを公開し、どこから秘密として守るのか、オープン&クローズ戦略をどうするか、という視点が十分ではありませんでした。

 さらに、その技術を将来どの市場で使うのか、世界のどのような標準の中で競争するのか、というところまで考えずに研究開発を進めてしまうケースがあります。

 国の研究開発支援も、これまでは「技術として優れているか」という点を中心に審査する考え方が強かった。ところが、10年かけて技術を完成させたときには、すでに海外で別の技術が市場を押さえていた、ということが起こり得ます。

 つまり、研究開発にお金を投入するだけでは、そのお金が、いわば「死に金」になってしまう可能性がある。だから、もっと初期の段階から、「この技術のどこを権利化して守るのか」「ライバルはどこにいるのか」「どんな標準を取るべきなのか」という視点を入れなければいけません。
 


——そこで重要になるのがIPランドスケープですね。

 

大塚 企業経営にも必要ですが、産業政策にもIPランドスケープの観点が重要です。自分たちがどこで勝てるのか、逆にどこに弱点があるのかを、知財の状況から市場全体を俯瞰することが大事です。

 例えば、自分たちが強いと思っている技術があったとしても、なぜ強いのか。周囲に防衛線を築けているのか。抜け道が残っていないか。さらに、自分たちがその場所に陣地を築いている間に、ライバルが別の場所にもっと強い陣地を築いていないのか。

 囲碁の碁盤全体を見るようなものです。自分が投資している技術の周辺だけを見ていると、思わぬところから陣地を削られてしまいます。

 17の戦略分野についても、日本がどの技術領域で強く、どこが弱いのか、知財の構造をまず可視化する。そのうえで、日本としてどこを伸ばし、どこを守るのかという戦略を作らなければ、本当の意味で勝ち切ることは難しいと思います。

 

——「勝ち筋」と「負けの挽回」という考え方ですね。

 

大塚 今、日本が技術的に優位な分野については、どうやって最後まで勝ち切るかを考えなければいけません。同時に、すでに劣勢となった分野についても、どこなら巻き返せるのかを考える必要があります。

 さらに、17分野の中には、日本のスタートアップが非常に優れた技術を持っているケースもあります。しかし、相手はグローバル企業です。技術では勝っても、資本力で負けてしまう可能性がある。

 そこで、知財と標準化によって防衛線を作ることが重要になります。日本のスタートアップが持つ技術をしっかり守り、日本勢が強みを発揮できるルールの基盤を作ることが不可欠です。

 

経済安保の観点からも技術・ノウハウの流出を防ぐ

 

 

——提言では経済安全保障との関係も強く打ち出されています。

 

大塚 経済安保はいま最も強い危機感を持っていることの一つです。自民党・経済安全保障推進本部の副本部長として関わっていますが、日本企業は知財に対する防衛意識が弱いと感じています。実際に、技術流出が後を絶ちません。特許になっている技術だけではありません。営業秘密や製造ノウハウ、顧客網、人材、組織の作り方など、権利化できない無形資産でも問題が起きています。

 人材の移籍を通じてノウハウが流出するケースもあります。最近聞いた例では、ゲームシナリオや制作ノウハウを持つ人材が外国企業に高給で引き抜かれ、そこで過去の日本のヒット作品について、作り方のノウハウを詳しく説明させられたという話があります。人材、営業秘密、企業文化の中に蓄積されたノウハウまで含めて、どう守るかを考えなければいけません。

 

——中堅・中小企業の技術を守ることも重要ですね。以前にも、製造ノウハウの塊である金型の会社が海外メーカーに買収されるなどして技術流出が問題になりました。

 

大塚 中小企業が保有している技術の中にも、経済安全保障上重要なものがあります。ところが最近は、技術が流出するだけではなく、ご指摘のように、技術を持っている会社そのものが買収されてしまうケースが起きています。中小企業の場合、研究開発費が不足し、海外企業から「研究開発費を出すから」と言われて、簡単に受け入れてしまうケースが見受けられます。

 だから、外為法(外国為替及び外国貿易法)の運用を含めて、買収しようとしている企業がどういう企業なのか、その背後にどういう資本や影響力があるのかをきちんと見極める必要があります。
ただ、経済安全保障上の「重要技術」とまでは言えないけれど、日本の国際競争力にとって重要な技術をどう守るのかという問題も残ります。

 そのためには、中小企業が持っている知財を金融機関がきちんと評価できる仕組みも必要です。政府は企業の無形資産を含む事業全体を担保とする融資制度(事業性融資)を導入しましたが、それを普及させるためには、対象企業がどんな技術や知財を持ち、それが将来どんな価値を生み出すのかを金融機関が評価しなければなりません。それができなければ、本当の意味で事業性を評価した融資を実施するのは難しいでしょう。

 

地域未来戦略に知財・無形資産の防御が不可欠

 

 

――知財・無形資産を守る場合に弁理士の不足も課題です。米国に比べて大幅に人数が足りないですし、国際的に知財を守っていくためには英語ができる弁理士の数も増やす必要がありますね。

 

大塚 特に中小企業の知財問題を解決していくためには、外部の弁理士は不可欠です。大手企業には社内弁理士がいますが、中小企業では外部に頼る必要があります。せめて、地方銀行などが事業性融資を行うのであれば、銀行内に弁理士を抱えてほしいものです。

 

――政府が今後推進する「地域未来戦略」でも知財戦略は不可欠ですね。

 

大塚 地域未来戦略は戦略17分野で大規模投資を行い、各地に産業クラスターを形成して、地方経済の成長を目指すわけです。地方の企業が技術力を磨く際にも、研究開発投資を行う際にも、そして海外輸出を自ら手掛ける場合も知財の防御が重要です。

 

——戦略17分野ではAIへの期待も非常に大きいですね。

 

大塚 AIそのものだけでは競争力になりません。AIをどの産業にどう組み合わせるか、どのデータを保有するか、どのサービスとして提供するか。そこに知財戦略が加わって初めて競争優位が生まれます。

 フィジカルAIの分野は日本が強いはずです。現場データを集めて作ったファクトリー型のロボットで日本企業は競争力があります。しかし、最近は、必ずしも汎用型のAIロボットで日本が強いわけではありません。

 人型ロボットでも日本は先行していましたが、今や中国が人型ロボットの先進国です。ですので、フィジカルAIでは日本が強いと安心せず、研究開発投資を増やしていくべきですし、知財で守る必要があります。
 

 

国際標準化のルールメーカーの地位確保を

 

 

——今回の提言では、「国際標準化」も大きなテーマとして取り上げられています。そもそも、知財戦略と標準化はどのような関係にあるのでしょうか。

 

大塚 私は、知財戦略の最終段階が標準化だと考えています。自民党の知財戦略調査会の中に国際標準化小委員会を立ち上げたときに、当時の小林鷹之知財戦略調査会長(現自民党政務調査会長)に「日本が主導する国家標準化戦略を作ってほしい」と依頼され、取り組みを始めた経緯があります。

 その結果、知財戦略を仕切る内閣府が2023年度の補正予算で30億円を確保することになりました。この年間30億円の予算は、経済安保や先端技術といった分野で規格の開発や人材育成などの支援に充てています。

 私の問題意識はこうです。企業はまず優れた技術を開発します。その技術について特許を取得し、事業化を進めていく。しかし、それだけでは世界市場で勝てません。本当に重要なのは、その技術が世界で使われるための共通ルール、つまり標準として採用されることです。どのようなルール、どのような標準の上で競争するのかという「土俵づくり」が重要です。

 標準を押さえた企業は、市場そのものを大きく広げることができます。一方で、どれほど優れた技術であっても、自社の技術が標準から外れてしまえば、市場を失うのです。

 

——日本企業は技術力では高く評価されながら、必ずしも世界の市場で勝ち切れていないと指摘されます。その背景にも標準化があるのでしょうか。

 

大塚 日本企業はこれまで、「良い技術をつくれば世界が評価してくれる」という考え方を持っていた面があります。しかし、現実の市場は技術だけで動いていません。ルールによって動いています。

 オリンピックに例えると、日本がオリンピックで金メダルを取り続けていた競技で突然ルールを変えられて勝てなくなったことがありました。どれだけ実力のある選手でも競技のルールを決めることはできません。ルールを決めるのはIOC(国際オリンピック委員会)や国際競技団体です。

 経済の世界でも同じです。技術では勝っているのに、ルールが変わった途端に市場で勝てなくなる。そういうことを繰り返さないためにも、選手になるだけではなく、ルールを決める標準化団体であるIOCの委員にもならなければならないのです。

 

——つまり、日本は「プレーヤー」ではあっても、「ルールメーカー」にはなり切れていなかった。

 

大塚 そうです。日本から国際標準化会議に参加している企業や研究者はいます。しかし、多くの場合、技術的な説明をする立場にとどまっていて、議論全体を主導する役割は十分ではありませんでした。
国際標準化の会議に出席して、議事録を持ち帰って報告するだけではダメです。ルールを決める側に入らなければいけない。さらに、その委員会で発言力を持つプレーヤーにならなければいけません。

 

——海外では、標準化をどのように位置付けているのでしょうか。

 

大塚 EUは標準化を産業政策の中核に位置付けています。中国も国家戦略として標準化活動に多くの人材を送り込んでいます。国を挙げて国際標準化の場に人を送り込み、議長や座長などのポストを取って、国際的な発言力を高めています。

 米国は公的機関が認める「標準化」よりも、事実上の業界標準である「デファクトスタンダード」を重視してきました。資本力があれば、デファクトを獲得できたからです。しかし、米国は考えを改め、今は標準化を国家戦略として進めるようになっています。

 EUや米国に共通しているのは、技術開発と知財、標準化を別々のものとして扱っていないことです。一体の戦略として進めています。日本も、技術を作るだけではなく、その技術が世界で使われるためのルールを作る側に回らなければいけません。

 

——戦略投資17分野を考える場合も、知財や標準化への投資を最初から組み込む必要があるということですね。

 

大塚 17分野に国が研究開発費を大幅に投入して、技術を試作し、実装できるところまで持っていったとしても、知財が取れていなければ意味がありません。そして、知財を確保しただけでも十分ではありません。その技術を世界市場で普及させるためには、標準化まで考える必要があります。研究開発、知財、標準化、事業化までを一つの流れとして考える必要があります。
 

 

標準化の司令塔「標準戦略監」を創設へ

 

 

——政府の側にも変革が必要だということですね。

 

大塚 標準化支援の国の予算もありますが、17分野すべてを考えると十分とは言えない。予算を増やすことも必要です。ただし、単純に予算を増やせばいいという話ではありません。政府の仕組みそのものを変えていく必要があります。これまで日本では、標準化が省庁ごとの取り組みになりがちでした。そうではなく、標準化を推進する司令塔機能を強化する必要があります。

 そこで政府は国際標準化を統括する司令塔として局長級の「標準戦略監」というポストを作る検討を始めています。各省庁がそれぞれ進めてきた標準化への取り組みを内閣府に集約して標準化に関する強いリーダーシップを発揮してもらうことになると思います。

 標準化ではほかにも、国際標準化のロードマップをつくり、人材も育成していかなければなりません。企業任せではなく、国としてどの分野で世界標準を目指すのかを明確にするのです。そこまでやらなければ、17分野への投資を本当の意味で成長につなげることは難しいと思います。

 

PROFILE
 

大塚 拓/Otsuka Taku

1973年6月生まれ、53歳。1997年3月慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2003年に渡米し、ハーバード大学ケネディ行政大学院公共政策修士プログラムに入学。2005年に同大学院で公共政策修士号を取得。同年9月、第44回衆議院議員総選挙に初当選、これまで6回の当選。法務大臣政務官・内閣府大臣政務官(2014年)、財務副大臣(2016年)、内閣府副大臣(2019年)など政府要職を歴任。現在は、自由民主党で知的財産戦略調査会会長、経済安全保障推進本部副本部長などを務める。妻は衆議院議員で元環境大臣の丸川珠代氏

 

(聞き手):デロイト トーマツ戦略研究所  共同代表理事/主席研究員 香野剛
                                      企画統括/主席研究員    黒石秀一
                     シニアフェロー  酒井 綱一郎
                     編集長/主席研究員   江田 覚

                                                                                                             (在籍当時)
                       
撮影:デロイト トーマツ戦略研究所              主席研究員  駅 義則
 

<参考文献・注釈>

  自由民主党知的財産戦略調査会. (2026). 「知的財産戦略調査会提言」. https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/213635_1.pdf

 特許などの「Intellectual Property(知財)」と、景観や風景を意味する「Landscape」を組み合わせた言葉。知財情報の解析を活用して経営に資する戦略提言を図ることを指す。


 ※最終閲覧日は2026年8月28日。